費用と手間は誰が負担するのか 遺言書の形式を例に
前稿で、「終活の極意」とは、
「お金のかかることや面倒なことは、自分の世代で始末をつけておくこと」
だとお伝えしました。
今回は、「お金のかかることや面倒なこと」、つまりは「費用と手間」を誰が負担することになるのかについて、遺言書の形式の違いでご説明しましょう。
実は、自筆証書遺言と公正証書遺言では、「費用と手間を誰が負担するのか」が、正反対なのです。
自筆証書遺言と公正証書遺言のどちらの形式を選ぶか
結論から申し上げましょう。
自筆証書遺言の特徴を一言で言えば、「作る人は楽。でも遺された家族にとっては、いろいろ面倒」な遺言書。
一方で公正証書遺言の特徴を一言で言えば、「作る人にとっては、ちょっと手間と費用がかかるけれど、遺された家族にとっては楽」な遺言書なのです。
どんな手間と費用がかかり、それを誰が負担することになるのか、具体的にお話ししましょう。
自筆証書遺言にかかる手間と費用
自筆証書遺言とは、遺言者本人が、「全文」「日付」「氏名」を自筆で書き、捺印して作成するものです。
言ってみれば、紙とペンと印鑑・朱肉さえ手元にあれば、すぐに作成できるのが自筆証書遺言です。
遺言者本人にはほとんど費用もかかりません。
ですから、「遺言をする本人にとっては楽」な遺言作成方式と言えます。
では、遺された家族にとってはどうでしょうか。
遺言を書いた方が亡くなられたら、自筆証書遺言の保管者またはこれを発見した相続人は、遅滞なくこの遺言書の「検認」を、家庭裁判所に申立てなければなりません。
また封印のある遺言書は、勝手に開封してはいけません。家庭裁判所で相続人等の立会いのもとで開封しなければならないことになっています。
「検認」の申立ては、遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に、所定の「申立書」に必要書類を添付して提出して行います。
標準的な添付書類は、以下の通りです。
1.遺言者の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改正原戸籍)謄本
2.相続人全員の戸籍謄本
3.遺言者の子(及びその代襲者)で死亡している方がおられる場合には、その子(及びその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍・改正原戸籍)謄本
※被相続人に子がいない場合や、相続人不存在の場合などは追加資料が必要
家庭裁判所に申立てた後、裁判所から検認期日の通知が各相続人に対してあります。
検認期日に、申立人が遺言書を提出し、出席した相続人などの立会いのもと、封筒を開封し、遺言書の検認が行われます。
検認が終わったら、「検認済証明書」を発行してもらいます。
検認調書または検認済証明書がないと、不動産の所有権移転登記や銀行預金の払い戻しなどの相続手続きができません。
自筆証書遺言が遺されていた場合に、相続人が負担する費用としては、検認申立て費用が遺言書1通につき800円。連絡用の郵便切手代、戸籍謄本等の発行手数料や通信費くらいですので、それほど大きな負担ではありません。
でも、手間が・・・
あなたが相続人の立場だったら、聞いただけで「面倒な手続きだなあ」と頭を抱えたくなるのではありませんか?
面倒な手続きを、相続人にさせることなく、遺言者本人の手で先に済ませてしまうには、公正証書遺言という方式を選択することをお勧めします。
公正証書遺言にかかる手間と費用
公正証書遺言とは、遺言を遺したいご本人が公証役場に出向いて、2人以上の証人の立会いのもとに作成する遺言です。
公証役場で公証人によって作成されるので、法的に有効であるかどうかのチェックがなされ、また確実に保管されます。
ただし公証役場では、遺言書の内容について、争いが起こらないような配慮などについてのアドバイスはしてもらえません。
そこで、予防法務の専門家である行政書士に、相続人調査や財産調査、公正証書遺言の文案の起案、公証人との打ち合わせ、証人の手配等を依頼することが賢明です。
公正証書遺言書の作成にかかる費用としては、公証人の手数料が財産の額に応じて必要となります。(例えば、財産の価額が1000万円を超え3000万円以下の場合で23,000円)
行政書士の報酬として、依頼内容によりますが10〜15万円程度。
証人が2名必要なので、証人報酬一人につき1万円ほど。
これらを遺言者ご本人に負担頂く必要があります。
遺言者が亡くなられた時には、公正証書遺言であれば、「検認」を受ける必要はありません。
さらに、公正証書遺言を作成される際に、行政書士などの法律の専門家を遺言執行人として指定し、報酬額も書き込んでおけば、相続手続きはすべて遺言執行人に任せることができ、相続人が面倒な手続きをする必要はありません。
公正証書遺言は、「相続に係る手間と費用は遺言者が負担をするので、遺された家族にとっては楽」な遺言書の方式なのです。
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