親亡きあとの課題
障害のある子どもさんがおられる場合、親亡き後の問題にどのように備えるのかが課題です。
私にも、障害のある叔母がありました。これから成年になる自閉症の甥もいます。
親亡き後問題は、他人ごとではありません。
親亡き後の問題・・障害のある子は、親亡き後に
・どこで暮らすのか
・生活介助や介護・看護・医療はどこで受けるのか
・生活資金はどれくらいあるか
・財産管理は誰がするのか
・本人の生きていく上での様々な希望を代弁し権利を守る役割は誰がするのか
こういった課題に対して、それぞれのご家庭の事情に合わせて、どのような備えが可能なのか、適切なのか、情報収集をしながら、早い時期から検討し、備えていくことが必要だと思います。
検討しておくべき課題について、具体的に見てみましょう。
生活の場と支援機関を決める
まず、親亡き後に障害のある子が暮らす場所、生活拠点をどこにするのかという課題があります。
・親の持ち家を障害のある子に相続させ、生活支援は福祉サービスを利用する
・兄弟姉妹の家に同居する
・グループホームに入居する
・施設へ入所する
などの選択肢があるかと思います。
親の自宅を障害のある子に相続させるには、法的効力のある遺言書を遺す必要があります。
これまで親と同居していた子の居住の場を、グループホームや施設入所などへと変更するなら、親がまだ元気なうちに、障害のある子本人の意思も尊重しながら居住の場選びをし、慣らし期間を設けるなど、できるだけスムースな移行ができるように配慮することが必要です。
成年後見人をつけましょう
親亡き後、障害のある子が福祉・医療サービスを利用する時には、どこの機関のどのようなサービスを受けるのかを「選択し、契約する」必要が生じます。
また、自己の年金や親の遺した財産を管理し、生活費等に適切に支出していくための「財産管理」も必要です。
利用している福祉サービスなどが、本人の意思を尊重した処遇となっているか、権利侵害を受けていないかなど、本人の生活状況を見守り、必要な措置を行う「身上監護」を行う人の確保も必要です。
これらが「後見業務」と言われるものです。
親が元気なうちは親が行っていたこれらのことを、親亡き後に誰が担うのかが課題となります。
知的障害、精神障害など「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある人」については、家庭裁判所に成年後見人の選任の申し立てを行うことをお勧めします。
まず親が元気なうちに、親や兄弟姉妹を後見人候補として申し立てをし、親族が後見人になっておけば、後見人が亡くなった時には、家庭裁判所が次の後見人を選任してくれます。
しかし親族が後見人となった場合には、毎月の財産管理の状況などを家庭裁判所に報告しなければならないなどの事務手続きを煩雑に思われる方も多いのが現状です。
行政書士、司法書士、弁護士などの専門職に後見人を依頼することもぜひご検討ください。
「後見人」は、医療同意を行うことや、入院費の連帯保証人、身元引受人にはなれません。
ですから、兄弟姉妹などがおられる場合には、日常的な財産管理と身上監護は専門職後見人が担い、親族は医療同意や連帯保証、身元引受人などを担い、親族としての面会やお見舞いを行うという具合に、役割を分担することをお勧めします。
専門職後見人と親族とが複数後見人となることもできます。
兄弟姉妹には、それぞれの生活があり、長い人生の中では仕事の都合などで遠隔地に転居するようなこともあるでしょう。
親が元気なうちに、この人ならと思える「後見人候補」となる専門職の個人または団体を見つけて、選任の申立てをしておくことが安心です。
専門職後見人の報酬について、心配になるところだと思います。
専門職後見人の後見報酬は、被後見人(後見を受ける本人)の財産の額に応じて、裁判所が決めます。
通常、1ヵ月2〜3万円程度です。(不動産の売買などの大きな取引があった時などには加算されます)
よく質問されるのですが、本人が利用している施設の職員や訪問介護員などは後見人にはなれません。
サービスの利用者と提供者とは、利益相反関係となるからです。
遺言書は必ず作成しましょう
預貯金にしろ、不動産にしろ、親が何らかの財産を遺す場合には、必ず遺言書を作成しておきましょう。
親が遺言書を遺さずに亡くなった時には、遺産分割協議をしなければなりません。
相続人となる障害のある子に成年後見人がついていない場合には、まず家庭裁判所に成年後見人の申し立てを行い、後見人が選任されてから、後見人を含む相続人全員で遺産分割協議を行わなければなりません。
同じ相続人である兄弟姉妹などが成年後見人である場合には、障害のある子と兄弟姉妹が利益相反関係となってしまうので、家庭裁判所に「特別代理人」の選任を申し立てなければなりません。
このような手続きを踏んだうえで作成された「遺産分割協議書」がなければ、亡くなった親名義の預貯金の解約も、不動産の名義変更もできません。
法的に有効な「遺言書」があれば、遺産分割協議は必要ありません。
ですから、障害のある子のおられる方は、必ず遺言書を作成し、その子に遺したい特定の財産を指定したり、相続分(分配の割合)を指定しておきましょう。
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